翻訳作品紹介
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第1回選定作品
作品タイトル
『腕くらべ』
作家名
翻訳者
英語版 / Stephen Snyder published
ロシア語版 / Irina Melnikova published
初版
1918年 十里香館
キーポイント
  • 大正時代の代表的作家が、花柳界を舞台に人間模様を情緒豊かに描いた傑作
(あらすじ)
「花街で繰り広げられる、新旧の芸者たちによる 恋の腕くらべ」
 
芸者の駒代(こまよ)は、新橋の尾花家お抱えの芸者。「誠と意地という古風な芸者気質」を引き継ぐ駒代と、新時代の芸者たちとの恋の腕くらべの物語である。
 新橋は、江戸の古き良き伝統を重んじる柳橋などと違い、金と権力がものをいう新興の花街であった。そこには、本来の芸者気質とは縁遠い芸者たちがいる。新しい女を名乗り芸術家を気取っている蘭花(らんか)。肉体だけを売り物にする菊千代(きくちよ)。旦那の遺産を手にして、次なる旦那を捜す金持ちの君竜(きみりゅう)。貯金通帳をお守りにする現実主義的な花助(はなすけ)。こうした芸者を相手にする男もまた、かつての花街の遊びを知らず、物語では、打算と欲望に駆られたさまざまな人間像が描かれる。
 駒代は、再会した保険会社のやり手で権力欲の強い吉岡(よしおか)と関係を結ぶが、女形の役者、瀬川一糸(せがわいっし)に心惹かれる。それを知った吉岡は、見栄と欲望のままに菊千代に走り、駒代を捨てる。駒代は一途に、瀬川といっしょになりたいと願ったが、君竜に誘われた瀬川もまた、君竜の持参金を目当てに駒代を捨ててしまう。
 芸者、駒代の姿を通して、花柳界に近代的合理主義や経済観念が浸透し、江戸の粋や人情が廃れていくさまをリアルに描いた、大正期の風俗を描いた代表的な作品である。
 
 
ジャンル:純文学
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