翻訳作品紹介
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第2回選定作品
『マシアス・ギリの失脚』
作品タイトル
『マシアス・ギリの失脚』
作家名
翻訳者
英語版 / Alfred Birnbaum published
初版
1993年 新潮社
キーポイント
  • 魔術的リアリズムの手法で描かれた壮大なスケールの傑作長篇
(あらすじ)
「永遠に循環する時間と現実の世界を動かす時間の狭間に独裁者は落ちていく」
 
 舞台は、南の海に浮かぶ島、ナビダード民主共和国。この国の島々には、スペイン、ドイツ、日本、アメリカによって統治されてきたという悲しくもおかしい歴史がある。かつての統治国は、今はODAの援助という形で周辺海域への影響力を競い合っているが、新しく独立したナビダード民主共和国には日本とのパイプをもつ大統領マシアス・ギリがいて、国際的な関心を集めようとしている。
 あるとき日本の慰霊団がナビダード民主共和国を訪問するが、歓迎式典で日本国旗が炎に包まれる。その翌日には、慰霊団47名を乗せたツアーのバスが行方不明となり、人々は「バスが最後に目撃されたのはカソリックのミサに参加していたときだ、バスはきっと珊瑚礁を乗り越えてしまったのだ」など、さまざまな噂をささやき合う。しかし、マシアス・ギリ大統領は、ゲリラ組織が自分と日本との関係を壊そうともくろんでいると疑う。こうして、それまで政敵もないと考えられていた大統領は、大きな何かに吞み込まれ、次第に失脚への道をたどっていく。
 作品に編み込まれる数々のエピソードは、読者を幻想的で楽しい気持ちにさせる一方で、ほろ苦さも徐々に与える。池澤は国際的な事柄について「日本人離れした」意見を述べることがあるが、本作は国際的視点とウィットに富んだ世界的にも重要な文学作品と言えるだろう
 
ジャンル:純文学
 
受賞:谷崎潤一郎賞(第29回)
(時代を代表する優れた小説・戯曲に贈られる谷崎潤一郎賞受賞作)
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