翻訳作品紹介
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第2回選定作品
作品タイトル
『アブラクサスの祭』
作家名
翻訳者
ドイツ語版 / Lisette Gebhardt published
初版
2001年 新潮社
2006年 新潮社(文庫版)
キーポイント
  • 映画化され、サンダンス映画祭2011の招待作品ともなった話題作。
  • 自分探しをする中年に差し掛かった禅僧の、魂の彷徨と浄化を描く物語。
(あらすじ)
「分裂病と躁うつ病を病む僧侶の、心を解き放つロックの祝宴」
 
ライブの数日前から、禅僧の浄念(じょうねん)は、部屋の三面鏡の前で、裸で結跏趺坐して「ナム・アブラクサス」という呪文を唱えている。「アブラクサス」とは、何か?
浄念は、分裂病と躁鬱病を病んでいた。10代でジム・モリソンに心酔しロックにのめり込んだ。年上の女性との愛欲に溺れ、精神病院に入院し、27歳で自殺未遂と、過去は過酷だ。その間もロックの作品は作り続けていた。学業も僧堂での修行も、故郷で与えられた仕事にも落ち着けなかったが、今は、東北の小さな町の寺に勤め、妻の多恵(たえ)と5歳になる息子、理生(りう)と暮らしている。
鬱のときには、俯いた「浄念歩き」となり、檀家さんと話すこともできない。躁のときには、多恵の前で裸踊りを踊る。多恵は、夫を「きちがい」と罵りながらも、愛し支えてきた。40歳を迎えたとき、薬と酒で日々をやり過ごしてきた浄念が、音楽への情熱を呼び覚まし、ライブを開こうと決意する。
ライブの日、浄念は歌ううちに気持ちが高揚し、光に包まれて輝く世界に同化する感覚に恍惚となる。そして感情が頂点に達したとき、おまえはそのままで正しいと「アブラクサス」の掲示が聞こえる。ライブという祝祭のなかで、歓喜が浄念を浄化する。
精神病に病みながらも、自分を捜し続ける浄念の魂の成長を描く問題作。
 
 
ジャンル:純文学
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