翻訳作品紹介
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第2回選定作品
作品タイトル
『挟み撃ち』
作家名
翻訳者
英語版 / Tom Gill published
初版
1973年 河出書房新社
1998年 講談社(文庫版)
キーポイント
  • 「内向の世代」の代表作家、後藤明生が、現代の存在の不安を鋭く描出した問題作。
(あらすじ)
「あの外套はいったい、いつわたしの目の前から姿を消したのだろうか?」
 
 ある日突然早起きした赤木(あかぎ)は、20年前受験のため北九州から上京した際に着ていた、カーキ色の旧陸軍歩兵用の外套を思い出し探し始める。それは、母がどこからか調達したものであったが、赤木はその外套の行方を求めて、昔の下宿先や利用していた質屋、当時の友人のもとを訪ねる。かつて世話になった下宿屋のおばさんと思い出話に花を咲かせている間に、忘れていた友人久家(くげ)の存在を思い出した赤木は、久家の職場のある上野へと向かう。外套を捜していくと同時に、赤木の頭の中には生まれ育った朝鮮北部で迎えた敗戦、九州の親の郷里への帰還、学生時代の下宿生活などが脱線を繰り返しながら展開する。
 一日あちこちを探しまわってみたものの、外套の手がかりはつかめず、夕方、お茶の水橋の上でまた別の友人山川(やまかわ)を待ちながら、赤木は「ジ・アーリィ・バード・キャッチズ・ア・ウォーム」ということわざに反し、早起きしても何も得られなかった自分についてや、ゴーゴリの『鼻』や『外套』について想いをめぐらせていた。そして、20年前初めて上京したときにも、五分刈りに近い短髪で、田舎の高校の学生帽に真ん丸い書生眼鏡、旧陸軍歩兵用の外套という出で立ちでこの橋の上に立ったことを思い出していた。
 時に本筋から大きく外れ、時に内部に思い起こされる数々の歌に寸断される主人公の思考の運動を、独特の饒舌体で描く傑作長篇。
 
ジャンル:純文学
 
受賞:平林たい子文学賞候補作(第2回)
(毎年優れた小説・評論各1作品に対し贈られる賞)
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