翻訳作品紹介
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第2回選定作品
『ヘル』
作品タイトル
『ヘル』
作家名
翻訳者
英語版 / Evan Emswiler published
フランス語版 / Jean-Christian Bouvier
初版
2003年 文藝春秋
キーポイント
  • 日本を代表するSF作家が描く、ウィットとユーモアあふれる、シュールな世界
(あらすじ)
「ここは現世か地獄か? 夢か現か? おれは生きているのか?」
 
 57歳になる武は、交通事故に遭った。気がつくと彼はぼんやりとかすんだバーにいた。どういうわけか彼は人生の大半を過ごした体の障害がなく、松葉杖なしで歩くことができた。あたりを見ると見慣れた顔がいくつもある。5年前に飛行機事故で亡くなった泉がいる。やくざになって対立するやくざに殺された幼なじみの勇三もいる。凍死したホームレスの佐々木はビジネスマンだった当時のままのスーツを着ていた。
ここ「ヘル」では、3日間が地上での10年に相当し、人はその過去と未来を見ることができる。たとえば、勇三は彼を殺したやくざが友達を悩ませているのを見たし、人気の歌舞伎役者の市川紺蔵は同業者に嫉妬され、自分の出番になってもどうしても舞台に上がれず、悪夢さながらに舞台下の奈落の迷路をさまよっている。女優のまゆみと作家の鳥飼は自分たちを追ってくるパパラッチを払いのけようとしてエレベーターに飛び乗り、地下666階まで落ちていく。別の幼なじみの信照はいまだに生きているが、既に老人で妻と義理の娘の区別さえつかない。不幸なことに彼は武の仲間にはなれない。年老いて死んだ者は「ヘル」には受け入れられないのだ。
 このシュールな小説は地獄に対するユニークで新鮮な視点をもっている。さまざまな登場人物の物語を行き来しながら、読者に自分の人生を振り返らせる、刺激的で娯楽的な作品である。
 
ジャンル:大衆小説
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