翻訳作品紹介
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第3回選定作品
『おはん』
作品タイトル
『おはん』
作家名
翻訳者
フランス語版 / Dominique Palmé & Kyoko Sato
ドイツ語版 / Martina Ebi published
初版
1957年 中央公論社
キーポイント
  • 発行部数100万部を超えるベストセラー
  • 10年以上の歳月を費やした著者の最高傑作。1984年に市川昆によって映画化。
(あらすじ)
「妻と愛人の間で揺れ動く男の情痴のあさましさの行方は……」
 
 時と場所は明らかではない。この作品は(著者の故郷の方言で)加納屋という、紺屋の息子によって、静かで浮世離れした調子で語られる。加納屋は芸者のおかよに入れあげて財産をなくし、妻のおはんを見捨て、今はおかよに養ってもらう身である。おはんは幼い息子を連れて実家に戻っている。
 ある夏の夕方、加納屋は偶然、7年ぶりにおはんに遭遇する。その後息子の悟に出会い、急に父親としての愛情があふれだした加納屋は、「いつか」彼らと生活すると軽はずみな約束をする。以来、加納屋は才能にあふれ大きな姉のような愛情をもつおかよと、恥ずかしがり屋で控えめなおはんの間で揺れ動くことになる。
 優柔不断な加納屋に、悟の心は傷つき、加納屋は悟母娘と生活することを決断する。しかし、新居に引っ越しをした日、悟は事故死してしまう。おはんは「自分のことを案じてくれるな」という書き置きを残して姿を消す。自分の無気力を嘆きながら、加納屋はおかよの元に戻る。
 この物語は浅ましく、人間くさい男の姿をリアルに描いているようだが、実はおはんのもつ女性の美しさこそが真価といえる。聡明な女性は恋愛にやぶれても自虐的な哀感を伴った理想美を獲得し、絶対的な無敵さに到達する。この世界観は日本の古典芸術(とりわけ浄瑠璃)に通じるもので、時代を超え、決して色あせない美にあふれている。
 
ジャンル:純文学
受賞:野間文芸賞(第10回)
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