第3回選定作品
作品タイトル
『真鶴』
作家名
翻訳者
英語版 / Michael Emmerich published
フランス語版 / Elisabeth Suetsugu published
ドイツ語版 / Ursula Gräfe & Kimiko Nakayama-Ziegler published
ロシア語版 / Lyudmila Mironova published
初版
2006年 文藝春秋
キーポイント
  • 英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ポーランド語、ルーマニア語等の欧米言語にも翻訳された川上弘美の代表作
(あらすじ)
「なぜ去ったのか、からだの奥底で夫をうらんでいる……」
 
 数年前、日記に「真鶴」という言葉を残して、京(けい)の夫は失踪した。病気を患っていたのか、死にたいと思ったのか、それとも、生きたいと思ったから失踪したのか – それは京にもわからない。失踪後、法律的に離婚が可能な年月が過ぎても、京は籍も抜かず、夫の姓を名乗り続けている。
 母親、一人娘と三人で暮らす京は、不在の夫に対して、怨みと恋しさの混じったような気持ちを抱きながらも、7歳年上で、家庭のある恋人との逢瀬を重ねる。そして、恋人と逢っていないときは、何かにひきずられるかのように、真鶴を訪れる京だった。
 いつの頃からか、京のまわりには、ときおり、目に見えない女がついてくるようになった。それは夫の失踪以前から続いているのだが、京は誰にも打ち明けたことがない。最初は遠くからついてきて、性別すらわからなかったが、次第にその存在は濃さを増し、会話さえするようになる。その「女」が夫と何らかの関係があるように感じた京は、「女」との会話の中で訊いてみるが、夫にかんすることになると、「女」はきまって曖昧な返事をするのだった。
 幼かったために父親の記憶をほとんど持たないまま成長していく娘、見えない人間の存在に嫉妬を感じる恋人。まわりにいる者との関係に悩む一方で、いない者を強く感じ続ける京は、何年も東京と真鶴間の往還を重ね、夫を供養する決心をするのだった。川上弘美が新境地をひらいた、怖くも美しい作品。
 
ジャンル:純文学
 
受賞:芸術選奨文部科学大臣賞受賞(平成18年度)
(文学において優れた業績をあげ、新生面を開いた者に贈られる賞)
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