翻訳作品紹介
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第5回選定作品
『捜神鬼』 
作品タイトル
『捜神鬼』 
作家名
翻訳者
英語版 / Jeffrey Hunter
ロシア語版 / Andrey Zamilov
初版
1980年 講談社
2000年 徳間書店(文庫版)
キーポイント
  • 精神的に孤独である主人公が動物との関わりのなかで、人の内部にある業と欲を問うていく。
(あらすじ)
 高値で出荷直前の松坂牛が1頭、牛舎から突然消えた。犯人は牧夫の少年だと分かったが、700キロもの巨牛を、少年はどうやって、何のために逃がしたのか? 食肉として肥育された牛と、黒い子牛を唯一の友として育った薄幸な少年の物語(「痩牛鬼」)。手漕ぎの漁船を操り、昔ながらの方法で魚を釣り上げる手練れの漁師・重吉は、漁夫の敵と呼ばれる海の獣「なめそ」と出会い、ほかの魚と同様に愛おしんで漁をおろそかにし、なめそを駆除しようとする漁夫たちと対立する。その海に80年棲んできた老漁夫の運命は?(「海獣鬼」)。真っ赤なはさみを振り上げ、ゆっくり、ゆっくり、国道をゆく赤手蟹を「アカ」と呼び、行き交う車から守る少年・真一は、悲しい生涯を生きた亡き祖父のため、アカを海に戻してやろうと頑張っている。奇特な少年の姿はマスコミの話題となり、「蟹と少年と犬を守る会」が結成される。真一たちは無事、海にたどりつけるのか(「妖獣鬼」)。〈あの女は鬼を心に棲まわせている〉との遺書を残し、10月初旬、医師の島田が投身自殺をした。その3ヵ月前の6月、島田の妻は息子を道連れに自殺していた。重いぜんそくで入院中の少年が発作を起こしたとき、担当医の島田は女性看護師の中瀬伊良子とホテルにいて、手当が間に合わずに少年が死亡。少年の母親に伊良子が島田の過失を密告し、島田は家族もキャリアもすべて失ったのだ。意を決した島田は、放射線治療室で放射線弁を全開にしたまま伊良子と性交し、自らの命と引き替えに伊良子を全身被爆させて復讐を果たす。愛憎の果て、余命1ヵ月となった伊良子は知床半島へ向かい、刑事たちが伊良子を追う……(「聖獣鬼」)。”ハードロマン”と呼ばれる作風で人気を博した西村寿行(1930~2007)が79~80年に文芸誌に連載した4編を収める。動物と人間の関わりを描きながら人の内部にある業と欲を問う、動物小説集である。
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