

第1回JLPP翻訳コンクールの結果について
文化庁では、文芸作品の優れた翻訳家を発掘・育成するため、平成22年12月より公募してまいりました翻訳コンクールについて、このたび、第1回の受賞者を決定しましたのでお知らせします。また、審査員の講評、並びに最優秀賞受賞作品を掲載します。 なお、受賞者には、文化庁長官より賞状及び盾を贈呈します。
応募数 | 応募人数:101名(うち3件無効) 選考対象作品:英語65名(130作品)、ドイツ語33名(66作品) |
|
受賞者 | ※( )内は国籍、〔 〕内は選択した課題図書 | |
英語/ | 最優秀賞(1名) | ポリー・バートン(英国) 〔「都市生活」「ヘビについてI、II、III」〕 |
優秀賞(2名) | 松島あおい(日本) 〔「白っていうより銀」「ヘビについてI、II、III」〕 フィリップ・ブラウン(英国) 〔「リヤカーを曳いて」「ヘビについてI、II、III」〕 |
|
ドイツ語/ | 最優秀賞(1名) | セバスティアン・ブロイ(ドイツ) 〔「都市生活」「ヘビについてI、II、III」〕 |
優秀賞(2名) | ナディーン・グルーシュヴィッツ(ドイツ) 〔「都市生活」「ヘビについてI、II、III」〕 イザベル・渚・マッテス(ドイツ) 〔「リヤカーを曳いて」「懶惰の説(らんだのせつ)」〕 |
|
審査委員 | 英語部門/ | スティーブン・B・スナイダー(ミドルベリー大学教授、日本文学) 川本皓嗣(東京大学名誉教授、比較文学) 髙橋和久(東京大学教授、英文学) |
ドイツ語部門/ | エドゥアルド・クロッペンシュタイン(チューリッヒ大学教授、ドイツ文学) 池田信雄(東京大学、ドイツ文学) 初見基(日本大学教授、ドイツ文学) |
第1回翻訳者育成事業(翻訳コンクール)選評
全体講評
今回がコンクール第1回ということで,応募者の人数や力のレベルの予測がつきませんでしたが,幸い蓋を開けてみると,応募者数・翻訳の出来栄えともに,期待を上回るものでした。3編ずつ用意された小説と評論・エッセイの課題図書から,それぞれ1編ずつを選んで英語訳,あるいはドイツ語訳を提出するという課題に対して,英語訳は66名,ドイツ語訳は35名の応募がありました(※)。課題図書がかなり難解であり,また翻訳作業に与えられた期間も限られていたにもかかわらず,応募作品の中には極めて良質で,周到な事前の調査や準備をうかがわせるものが少なくありませんでした。応募者の皆様に心からお礼を申し上げます。
※うち3件無効。
英語部門
英語訳については,日本文学・比較文学・英文学を専門とするアメリカ人1名,日本人2名が最終審査に当たり,あらかじめ互いに採点結果を報告した上で,平成24年3月に集まって,議論を重ねました。主な判断基準は2点,(1)英文として優れていること,そして(2)日本語の課題図書の意味, ニュアンスや響きをよく伝えていることです。最終的に,「都市生活」と「ヘビについてI,II,III」を訳したポリー・バートン氏に最優秀賞,松島あおい氏とフィリップ・ブラウン氏の2名に優秀賞を授与することに,審査委員の意見が完全に一致しました。中でも最優秀賞のポリー・バートン氏は,英文の文学的クオリティについても,課題図書の読解についても,ほぼそのまま翻訳者として通用し得る高い成果を達成されました。また,優秀賞の2名の作品も,それに勝るとも劣らぬ優れた訳であり,審査委員も授賞作の決定に頭を悩ますほどであったことを特記します。
この翻訳コンクールの最大の趣旨は,日本語文芸作品の外国語翻訳の将来を担う優秀な翻訳家の発掘・育成にあります。その点からみて,第1回コンクールが誠に順調に滑り出したことを,審査委員として喜びたいと思います。
ドイツ語部門
第1回翻訳コンクールのドイツ語翻訳の審査では,最優秀賞にセバスティアン・ブロイさん,優秀賞にナディーン・グルーシュヴィッツさんとイザベル・渚・マッテスさんが選出されました。 池澤夏樹『都市生活』と安部公房『ヘビについてI,II,III』を訳されたブロイさんは,日本語の課 題図書の理解が極めて正確である上に,小説においては同時代の日本人の会話の様態を,エッセイにお いては自己韜晦(とうかい)や逆説にあふれる原文の細部にいたる雰囲気を,適切にドイツ語に移して いると,高い評価を得ました。これから翻訳家として活躍してゆくに足りる十分な力量の持ち主であると,審査員の意見が一致しました。 同様に『都市生活』と『ヘビについてI,II,III』を訳されたグルーシュヴィッツさんに対しても翻訳は正確であると高い評価が下されました。ただ,ブロイさんと比較した場合に,日本語文章の細かいニュアンスを伝えるに当たって,若干注文を付ける余地が指摘されました。
水上勉『リヤカーを曳いて』と谷崎潤一郎『懶惰の説(らんだのせつ)』を訳されたマッテスさんは,漢文混じりで理解が極めて困難な谷崎の課題図書を誠に正確に訳されていることに驚嘆の声が挙がるほどでした。ただ 水上訳においては,細部において明らかな誤訳等が少なからず混在したことが残念でした。
今回の選に漏れた応募者の多くにおいては,日本語の課題図書の理解が必ずしも十分でない,文体のもつ個性を捉え切れていない等々の指摘がなされました。
しかし,全体としてみたときには,応募者の翻訳は予想以上に水準が高く,今後の努力,研鑽(けんさん)を通じてより一層質の高い翻訳を生み出してくださるものと期待されます。今後の御精進を切にお祈り申し上げます。
最優秀賞受賞作品
英語部門 | ポリー・バートン | 「都市生活」 [PDF] 「ヘビについてI、II、III」 [PDF] |
ドイツ語部門 | セバスティアン・ブロイ | 「都市生活」 [PDF] 「ヘビについてI、II、III」 [PDF] |
「第1回JLPP翻訳コンクール」の実施について
このコンクールは終了しました。
第1回JLPP翻訳コンクール応募の皆さまへ第1回JLPP翻訳コンクール応募作品の郵送先が決定いたしましたので、お知らせいたします。 郵送先は、「個人情報保護法」に対応して決定されましたので、JLPP事務局の住所とは異なりますのでご注意ください。 また、応募作品は、課題作品のなかから、小説部門より1編、評論・エッセイ部門より1編の合計2編となります。 応募の受け付け期間は2011年9月1日(木)~11月30日(水)です。 その他、応募についての規定についてはサイト内の要項でご確認ください。 ●応募作品郵送先 (英語表記) JLPP Office T&K bldg 3-40-7, Kitaya, Souka-shi, Saitama 340-8501 Japan (日本語表記) 〒340-8501 埼玉県草加市北谷3-40-7 ティ・アンド・ケイパッケージ内 JLPP事務局 |
文化庁では、文芸作品の優れた翻訳家を発掘・育成するため、翻訳コンクールを以下の通り実施します。
★「第1回JLPP翻訳コンクール」応募用紙
- 応募資格
国籍、年齢は問わない。ただし、かつて文芸作品及びそれに類する作品の翻訳出版(2人以上で翻訳した場合も含む)の経験のある人は応募できない。
- 応募方法
- 専用の応募用紙をホームページよりダウンロードし、必要事項を記入する。
- 応募者本人の写真2枚(4cm×5cm、正面、上半身、無帽のもの)のうち、1枚は応募用紙に添付し、もう1枚の裏に氏名を書き入れる。
- 身分証明書として、パスポート、学生証、社員証の写しなど公的機関が発行し、生年月日、国籍、現住所を証明できるものを添付する。
- 翻訳作品は、データ(CD-ROM)と出力したものを、上記必要要項とともに郵送する。郵送先は、2011年4月以降にJLPPホームページ上で発表する。
- 出力は、A4サイズ又はレターサイズ/縦長、横書、32行/1枚、文字は12ポイント、フォントはTimes New Roman、左右に1.5cm以上の余白、総ページ数及び通し番号を記入する。
- 翻訳者の氏名は原稿には記入しない。
- Eメール等、郵送以外の方法で提出された応募は受け付けない。
- 提出物に不備があった場合には原則的に受け付けないが、やむを得ない事情のある場合は個別に対応する。
- 提出物の返却はしない。
- 期間
(1)作品受付期間2011年(平成23年)9月1日(木)~11月30日(水) 当日消印有効
(2)入賞者発表2012年(平成24年)4月 -
課題作品(1)小説部門
- 「都市生活」
- 池澤 夏樹
- 「白っていうより銀」
- 角田 光代
- 「リヤカーを曳いて」
- 水上 勉
(2)評論・エッセイ部門- 「ヘビについてI、II、III」
- 安部 公房
- 「お香とお能」
- 白洲 正子
- 「懶惰の説」
- 谷崎潤一郎
課題作品は以下からダウンロードしてください。希望される方には郵送しますので、下記問い合わせ先までご連絡ください。 -
翻訳点数小説部門、評論・エッセイ部門より各1点、計2点
-
翻訳言語英語又はドイツ語
-
賞最優秀賞 各言語1名、優秀賞 各言語2名
-
審査委員
- 英 語
- スティーブン・B・スナイダー(ミドルベリー大学教授、日本文学)
- 川本皓嗣(東京大学名誉教授、比較文学)
- 高橋和久(東京大学教授、英文学)
- ドイツ語
- エドゥアルド・クロッペンシュタイン(チューリヒ大学教授、日本文学)
- 池田信雄(東京大学教授、ドイツ文学)
- 初見基(日本大学教授、ドイツ文学)
-
問い合わせ先JLPP事務局(現代日本文学翻訳普及プロジェクト)→ お問合せフォーム