翻訳作品紹介
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第2回選定作品
作品タイトル
『俘虜記』
作家名
翻訳者
フランス語版 / François Compoint published
初版
1952年 創元社
キーポイント
  • 作家の太平洋戦争従軍体験に基づく連作小説。
(あらすじ)
「米軍収容所で、日本人俘虜たちのエゴティスムを凝視した作家の手記」
 
 著者は1944年に召集され、フィリピンのミンドロ島で警備にあたった。しかしマラリアで部隊から取り残され、山中を彷徨っているときに俘虜となる。本書は、著者が俘虜になってからレイテ島収容所に送られて過ごした日々の記録である。
山中を彷徨っている場面では、死に直面し、水を渇望し彷徨う姿が鮮烈に描かれる。自殺さえ考えた絶望的な状況で、目の前に顔に幼さの残るアメリカ兵が現れたとき、叢で銃の安全装置を外しながらも、自分の生涯の最後の時を人間の血で汚したくはないと、この兵士を討つまいと考えていた。
 収容所では通訳となった著者は、その中間的立場を利用し、収容所の生活と人間を観察する。レイテ島収容所は、決定的な敗軍から生き残った兵士で成り立ち、すでに日本軍精神は存在しない。俘虜は、米軍から清潔な住居と2700カロリーの食事や衣服、タバコなどを与えられ、過剰なカロリーで太った兵士たちは区別ができなくなる。相違が出るのは人柄と職業だ。大多数の農民、俸給生活者、中小工業者、官吏、宗教家、博打打など。収容所とは、雑多な俘虜が集められ、戦う現在もなく待つ未来もなく根本的に成立目的を失っている特殊な社会だ。閉じられた空間に、阿諛追従とエゴイズムがはびこっていく。敗戦後の日本社会の縮図であるかのような収容所の日常を、悲哀とともにリアルに描いた。
 
 
ジャンル:戦争文学
 
受賞:横光利一賞(第1回)受賞作品
(新感覚派の代表作家・横光利一を記念して設けられ、優れた文学作品に贈られる賞)
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