第1回選定作品
作品タイトル
『冥途・旅順入城式』
作家名
翻訳者
フランス語版 / Patrick Honnoré
ドイツ語版 / Lisette Gebhardt
初版
1981年 旺文社(文庫版)
キーポイント
- 昭和文学史に独自の輝きを残し、幻の名作といわれた短編集
(あらすじ)
「夢幻的な心象風景-人間の根源的な孤独と不安を描いた短編集-」
「私」が土手を港の方へ歩いて行くと、向こうから、紫の袴をはいた顔色の悪い女が近づいてくる。女は、「私」に向かい、丁寧におじぎをする。「私」は、女が誰だか思い出せないまま、おじぎをする。すると女は、一緒に参りましょう、と並んで歩き出す。
まるで自分を迎えに来たかのように振る舞う女を怪しく思いつつも、女に着いて行くと、入江の上空に大きな花火がいくつも挙がり、奇麗な色の火の玉が光の尾をひいて、入江の水中へと落ちて行く。その光景に既視感を覚えていると、女は、夜になると困るので早く参りましょう、と「私」を急かす。
さらに女に着いていくと、段々と息苦しさを感じるようになり、もう帰りたい、と感じる「私」だが……。(短編集「冥途」から「花火」)
「わたし」は子どもの頃に、からだが牛で顔丈人間の浅ましい化物・件(くだん)のことを聞いたことがあった。しかし、自分がその件になろうとは思いもよらなかった。何の影もない広野の中で、なぜそんなところに置かれているのかも、どうしていいのかもわからないで、「わたし」は、ぼんやり立っている。
その「わたし」めがけて人間が押し寄せる。件は生まれて三日で死ぬが、その間に人間の言葉で未来の凶福を予言すると言われている。それを聞こうと待つ恐ろしい人間の群れに囲まれて、何も言うことがないわたしは途方にくれる。(「件」より)
ジャンル:純文学