翻訳作品紹介
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第3回選定作品
作品タイトル
『単語集』
作家名
翻訳者
英語版 / Paul McCarthy published
フランス語版 / Isabelle Sakai published
初版
1979年 筑摩書房
キーポイント
  • 十九歳で鮮烈なデビューをはたした著者の実験的短編集
(あらすじ)
「作者と作品の奇妙な関係を描く12編の珠玉短編集」
 
列車のなかでわたしが出会った百科事典のセールスマンは、終着駅に着くまでの数時間のあいだ、一緒にウィスキイを飲まないか、と誘ってきた。他人のお喋りを聞くことが好きな私は誘いを受けることにする。
 彼は、かつて小説を書いていた。ある日、初恋の女性の部屋で、別の男が残したノートを見つける。読んでみると、そこには彼が彼自身のノートに書いた文章が、そっくりそのままの書かれているのだった。彼は、自分が書いたものを、別の人間が書いたものとして読むという奇妙な体験に苦しむ。「わたしは書く」と彼が書くと、そのノートの書き手も「わたしは書く」とノートに記す。繰り返すうちに、彼はノートの書き手ときりのない競争をしているようで、やがて、誰が書いているのかわからなくなり、小説を書くことをやめた。
 その彼の話を聞くわたしにも、ノートを送ってくる人物がいる。その人物に望むのは、ひとつでもいいから新しい言葉を書き加えてくれることだ。そして、ノートに書き込まれて送られてくる新しい言葉を夢見ながら、同時に、言葉というものの生命が、純粋な有機的な物質となることを夢見る。
 わたしは、どうしたら書くことをやめられるか、という概念にとらえられているが、彼の話は、その問いに対する一つの答えだったかおしれない。
 
(「競争者」)
 
 
ジャンル:純文学
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