翻訳作品紹介
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第3回選定作品
作品タイトル
『草の花』
作家名
翻訳者
英語版 / Royall Tyler published
フランス語版 / Ko Iwatsu & Yves-Marie Allioux
ドイツ語版 / Otto Putz published
初版
1954年 新潮社
キーポイント
  • 戦後文学界を代表する作家/詩人が作家としての地位を確立した作品
  • 「サナトリウム文学」の傑作
(あらすじ)
「僕は孤独だった。そして、孤独であることの中には罪の意識があった。」
 
 結核を患う「私」は、東京都下にあるサナトリウムで2度目の冬を過ごしていた。同室の汐見茂思(しおみしげし)は、自殺未遂を犯したり、サナトリウムの中で煙草を吸ったりするなど、何かと問題を起こしている。その汐見は、自殺行為にも似た、成功率の低い肺葉摘出術を受けることを決意する。手術当日、汐見は「私」に、「君になら、分ってもらえるかもしれない」と、2冊のノートを託し、手術中に亡くなる。
 遺されたノート2冊には、それぞれ汐見の18歳の春と24歳の秋の出来事が再現されていた。18歳の汐見は美しい下級生・藤木忍(ふじきしのぶ)に愛情を抱いていた。汐見にとってその同性への愛情は、青春の過渡期独特の一時的な感情とは思えず、純粋なものだったので、苦しんでいた。藤木は汐見の気持ちを知るも、「特別な友情はいらない」と汐見を遠ざける。こうして、汐見の愛は報われないまま終わりを迎える。
 それから、6年たち、24歳になった汐見は藤木の妹・千枝子(ちえこ)を愛していた。亡くなってしまった藤木の代わりに千枝子の面倒を見なくては、という義務感から藤木家を訪れるようになった汐見だったが、次第に成長していく千枝子の中に女性を感じ始める。そして、いつ召集令状が来るかもしれないという不安が、千枝子への気持ちを一層強くしていき、ついには千枝子を愛することだけが汐見の悦びとなる。しかし、千枝子もまた、もう会わない方がいい、と汐見を遠ざけるのであった。
 季節が過ぎるにつれて、あれほどまでに愛した藤木忍のことを忘れていくように、千枝子のことも忘れていくかと思っていた汐見の心は、逆に一層強く燃え上がっていく。そんな折、召集令状が汐見のもとに届く。
 「私」は、この2冊の内容を汐見が青春の途上で愛した唯一の女性・千枝子に伝えようと手紙をしたためる。手紙を手にした千枝子は、激しく動揺するのだった……。
 若者の絶望的な孤独な魂の愛と死を描いた不朽の名作。
 
ジャンル:純文学、サナトリウム文学
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