翻訳作品紹介
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第3回選定作品
『ゴールドラッシュ』
作品タイトル
『ゴールドラッシュ』
作家名
翻訳者
ドイツ語版 / Kristina Iwata-Weickgenannt published
ロシア語版 / Irina Melnikova
初版
1998年 新潮社
2001年 新潮社(文庫版)
キーポイント
  • 実在の連続児童殺傷事件に触発されて描かれた作品
(あらすじ)
「人生はゲームだと思っていた少年が、どうやって信じる心を取り戻すのか」
 
この小説は1997年に神戸の住宅地で起こった子供による殺人事件(被害者は10歳の少女と11歳の少年)を元にしたものである。
 主人公のかずきは14歳の少年で、父・英知はパチンコ店のオーナーである。かずきの兄・幸樹は遺伝子の病気であるウイリアムズ症候群で、常に誰かの助けを必要としている。かずきを跡継ぎにするため、父親は彼を溺愛し、高い教育を受けさせ、甘やかした。かずきはエリート私立校に通っていたが、だんだんと授業をさぼり、薬物に手を染め、女子高生のレイプ事件にまで関わるようになっていった。
 彼の姉の美歩は、時々援助交際をし、母親の美樹は宗教に走って家族を顧みず、家を出ていた。英知は美歩と美樹を虐待し、しばしば家を空けた。かずきは自宅にあった刀剣で父を殺し、遺体を地下の金庫室に隠す。それは父が息子に継がせようともくろんだ金の延べ板を隠した場所だった。
 作品の後半は少年がわずか14歳で「行方不明の」父の仕事を引き継ごうとする絶望的な試みとその崩壊が描かれている。かずきは父親殺しをガールフレンドの響子に打ち明け、響子はかずきに自首を勧める。警察に出頭する前にかずき、兄、響子の3人は動物園に出かけるが、そのとき空前絶後の大地震が横浜を襲う。「人を殺してはいけないのかな?」とかずきは響子に問いかける。彼にとってはすべてがゲームのようであり、父を殺害した後でさえ自分は警察の手から逃れられると信じていたのだ。この作品で著者の柳美里が描いたものは本当の「恐るべき子供たち」、「罪と罰」の現代版と言えるだろう。
 
ジャンル:大衆小説
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