第4回選定作品
作品タイトル
『硝子戸の中』
作家名
翻訳者
初版
1915年 朝日新聞
1971年 筑摩書房(『夏目漱石全集』)
1988年 筑摩書房(ちくま文庫)
キーポイント
- 透徹して温かく、ユーモラス。時代を凌駕する文体が瑞々しい文豪の名随筆
(あらすじ)
「硝子戸の中にいても人生はスリリング」
「硝子戸の中から外を見渡すと、霜よけをした芭蕉だの、赤い実のなった梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ目につくが、そのほかにこれと言って数え立てるほどのものはほとんど視線に入って来ない」−−。著者の夏目漱石(1867−1916)は、『三四郎』『こころ』など、日本文学史に燦然と輝く傑作を残し、1世紀を超えて読み継がれている文豪。
本作は、宿痾の胃病に悩み、風邪をひいて表に出ず、毎日、書斎の硝子戸の中に座っているばかりの漱石が、時々書斎を訪れる人々に対して驚き、彼らを迎え入れ、送り出しては、過去の出来事あり、当時の話題の出来事あり、人と社会に対する感懐を静かに綴った随想集。身辺を語ることの少なかった漱石の心情や生活が素描され、大正時代に朝日新聞に連載されるやたちまち多くの読者を獲得、小説からはうかがえない漱石の人格の温かさや人生哲学、ユーモアが深く織り込まれ、漱石文学の中で特異な位置を占めるエッセイ風の小品集である。
透徹した思考に裏打ちされ、日々の小さな驚きをとらえて躍動する心身によって記された文章は、いまも新鮮で活力に満ちており、100年近く前の作品でありながら、時の流れを凌駕するように、時代の古さを感じさせない。
ジャンル:エッセイ