翻訳作品紹介
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第5回選定作品
『minimal』
作品タイトル
『minimal』
作家名
翻訳者
ドイツ語版 / Eduard Klopfenstein
初版
2002年 思潮社
キーポイント
  • 潔く、そしてかぎりなく優しい、詩の恩寵を誌した傑作詩集
  • 呼吸を連ねるような、3行1連の新詩形による傑作詩集
  • 饒舌とは対極にあるもので「永遠」を誌しとどめた、傑作詩集
(あらすじ)
 潔く、そして限りなく優しい、削れるところまで削り尽くした言葉の連なりによる、3章計30編で編んだ詩集である。1章にある「そして」という詩は、〈夏になれば/また/蝉が鳴く 花火が/記憶の中で/フリーズしている 遠い国は/おぼろだが/宇宙は鼻の先 なんという恩寵/人は/死ねる そしてという/接続詞だけを/残して〉と、きわめて少ない言葉数で成る。本作が生まれる数年前、あまりにイージーに詩を書いてしまう自分、現実を詩の視線でしか見られなくなっている自分に倦んで、しばらく詩から遠ざかりたいと思った著者は、友人の誘いで「余白句会」に遊びに行き、17文字に世界を収める俳句の世界に触れた。中国に行く機会も得ると、のんきな旅のつれづれからいくつかの予期しない短詩が生まれた。俳句とある種の漢詩がもつ、“饒舌とは対極にあるもの”に知らず知らず同調していたらしい詩人は、帰国してから行脚の短い、3行1連の詩を気の向くままに書き、それまでの詩と異なるかたちをしたそれらを、minimalと名づけた。本作は、詩人にとって未知のものだった詩形、minimalを、30編編んでいる。
「そして」をはじめ、〈心の夜に/最後の/日の出を待つ〉(顔)、〈それが/私/土に返る〉(私)など、呼吸を連ねるような、しかし死を前に訪れる永遠の恩寵のような言葉で成る詩を収め、本作のために新たに訳された英訳をつけて、2002年に刊行された。終わることのない生への晴れやかなレクイエムと、たしかな刻(とき)を誌(しる)すのびやかな言葉のリズム。1931年生まれの著者は、詩作のほか、翻訳家、絵本作家、脚本家として活躍する日本を代表する詩人。その詩は英語、フランス語、ドイツ語、スロバキア語、デンマーク語、中国語、モンゴル語などに訳され、世界中に読者を持つ。本作は信じがたいほど幅広い作風の著者に、さらに新たな境地が拓かれた詩集である。
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