第1回選定作品
作品タイトル
『武蔵野夫人』
作家名
翻訳者
初版
1950年 新潮社
キーポイント
- フランス心理小説の手法を日本の文学風土に試みた、著者の初期代表作
- 溝口健二によって映画化もされた、戦後を代表するベストセラー
(あらすじ)
「武蔵野の自然のなかで繰り広げられる 純粋な情熱の恋愛物語」
道子(みちこ)は、原生林の面影を残す武蔵野に父が遺した家で、夫の秋山(あきやま)と暮らす。道子は29歳、大学でフランス語の教師をしている秋山は41歳。二人の家の向かいには、実業家の大野(おおの)が、派手好きな妻の富子(とみこ)と娘の雪子(ゆきこ)と住んでいる。ある日、道子の従弟の勉(つとむ)が、戦争が終わりビルマから帰還してくる。
勉は、富子に乞われて雪子の家庭教師になり、道子の家に下宿する。戦場で絶望を見た勉は、幼い頃から仲の良い道子と武蔵野の大地を歩くことで、心を癒す。やがて道子と勉のあいだに、恋愛の感情が芽生える。それは、勉の気を引こうとする富子と、秋山の妻に対する嫉妬心を煽る。やがて、秋山と富子は関係を持つようになると、二組の夫婦を巡って、姦通と虚栄、裏切りが錯綜する。
道子と勉は、お互いの愛を確信するが、道子の古風な道徳心が、それ以上踏み込むことを許さない。感情が昂ぶる勉に対し、変わらない愛を守ることができれば、いつか一緒になるときが来ると、道子は誓いをたてるのだった。しかし、それから間もなく、道子は、親密な様子の富子と勉の写真を秋山から見せられる。早くも誓いが破られたと思った道子は行き場を失い、ひとり睡眠剤を飲む。道子が最後に口にするのは、勉の名前だった。
ジャンル:大衆小説