第1回選定作品
作品タイトル
『梶井基次郎短編集(檸檬)』
作家名
翻訳者
ロシア語版 / Ekaterina Riabova
初版
1986年筑摩書房(文庫版)
キーポイント
- 昭和文学史上の奇蹟として、高く評価される梶井基次郎の代表作
(あらすじ)
「心をおさえつける、得体の知れない不吉な塊が私を襲う……」
京都に住む「私」は、肺を患って以来、焦燥のような、嫌悪のような、得体の知れない不吉な気持ちに襲われている。友人の下宿を転々と泊まり歩き、その友人が学校に出かけてしまうと、空虚な空気の中に取り残される毎日を過ごしている。病のせいで身体は常に熱を帯び、神経は衰弱し、以前は好んだ美しい詩や音楽も堪え難いものに変わっていった。そのかわりに、おはじきや南京玉などの色硝子、安っぽい装飾をほどこした花火の束など、みすぼらしくて美しいものに強くひかれ、そんなものを眺めることが享楽となる。肺病になる前好きだった店・丸善も、今はただ重苦しく感じられ、訪れる気にならない。
ある日「私」は、寺町の八百屋の店先に並んだレモンに目をとめる。その店は、けっして立派でないが、みすぼらしいというわけでもなく、ごく普通の八百屋だった。レモンイエローの絵具をチューブから搾り出して固めたような単純な色と、丈のつまった紡錘型の形に心を奪われた「私」は、レモンを1個だけ買う。熱のある身体に心地よいレモンの冷たさや、舶来の香りを楽しみ、興奮さえ感じる「私」は、高揚した気分に身をまかせ、足が遠のいていたはずの丸善にも易々と入っていった「私」だったが、次第に憂鬱な気持ちが押し寄せてきて、自分でも思いもよらない行動に出る。(「檸檬」より)
ジャンル:純文学