翻訳作品紹介
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第3回選定作品
『神様のボート』
作品タイトル
『神様のボート』
作家名
翻訳者
英語版 / Chikako Kobayashi published
フランス語版 / Patrick Honnoré
ドイツ語版 / Wolfgang Schlecht
ロシア語版 / Irina Purik
初版
1997年 新潮社
キーポイント
  • 数々の文芸賞を受賞し、女性読者より絶大な支持を得ている女流作家
(あらすじ)
「恋愛のしずかな狂気に囚われた母と、その娘の成長の物語」
 
 著者は本書のあとがきで「小さな、しずかな物語ですが、これは狂気の物語です。そして、いままでに私の書いたもののうち、いちばん危険な小説だと思っています」と記している。ロマンチックな恋愛の狂気の物語である。
 主人公の葉子は娘の草子と暮らし、昼はピアノを教え、夜はバーで働いている。かつて彼女は「骨ごと溶けるような」恋をして草子をもうけた。10年前にその男は「君がどこにいても、必ず君を探し出す」と言い残して去っていったが、葉子は何の疑いもなく彼を信じていた。物語は1997年、葉子35歳、草子10歳の時から始まり、約7年に及ぶ日常生活を母と娘双方の視点から描いている。
 葉子には3つの宝物がある。ピアノと“彼”と草子だ。彼女は目立つことを嫌い、読書と酒とリラックスの時間を欠かさぬようにしている。そして、ことあるごとに草子の父がいかに素晴らしい人間かを語る。草子に「どうして私たちはしょっちゅう引っ越すの?」とたずねられた葉子は「私たちは神様のボートに乗っているからよ」と答えた。“彼”がいつか彼女を見つけるために、葉子は深いつながりを持たず、周囲にとけ込まないよう、ほぼ毎年、引っ越しを繰り返しているのだ。
 そんな平穏な生活の中で葉子は“人生最大の危機”に遭遇する。草子が寮生活をすると言い出したのだ。恋人と二度と会えず、今また草子まで失うのかという恐怖に葉子は怯え、取り乱す。
 日常の当たり前の生活の中に潜む狂気、愛と別れ、そして死。本書は“喪失”に極めて鋭い感受性をもつ著者の最も重要な作品の1つであり、その力量が遺憾なく発揮されている。
 
ジャンル:大衆小説
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