第4回選定作品
作品タイトル
『木乃伊の口紅』
作家名
翻訳者
ロシア語版 / Galina Dutkina
初版
1913年 牧民社
1952年 岩波文庫
1994年 講談社文芸文庫
キーポイント
- 戦後繰り返し再評価される、先駆的女流作家の代表作を収録
(あらすじ)
「官能と近代的自我との間で揺れ動く、女の自画像描いた9編」
男の生活を愛することを知らない女と、女の芸術を愛することを知らない男。妻、みのるの好む芸術のために、新しい本を1つ買ってやることもしない夫、義男は、むしろ自分の生活と自尊心を傷つけられるのが嫌で、みのるが新しい知識を得ようと努める姿をからかう。そんな義男を、みのるは疎ましいと思いつのるようになる−−(木乃伊の口紅)。
チェーホフ的なテーマで、日常生活に専心する夫と芸術的生活を希求する妻との葛藤を描いた表題作を初め、近代女性として先駆的な生涯を生きた女流作家の代表作9編を収めた短編集。
著者の田村俊子は、文豪幸田露伴に師事し、女性の自立と解放を求めた歴史的な雑誌、「青鞜」の創刊号に耽美的な小説を発表、官能的な資質と近代的自我との間で揺れ動く女の自画像を多彩に描いた。
数奇な運命の果て、戦時下中国・上海の陋巷で客死した著者の作品には奇妙なバイタリティーがあり、1913年に出版された『木乃伊の口紅』は当時のベストセラーになり、そして死後も再評価が繰り返されている。本書は、文筆によって自由を得よう、精神を向上させようと努めながら、男との不如意な生活に陥ってしまう女の懊悩を濃密に描いた作品群を、現代社会に照らして再編成した。
ジャンル:純文学