翻訳作品紹介
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第5回選定作品
『花を運ぶ妹』
作品タイトル
『花を運ぶ妹』
作家名
翻訳者
ドイツ語版 / Sabine Mangold
トルコ語版 / Inan Oener
ポルトガル語版 / Jefferson José Teixeira
初版
2000年 文藝春秋
2003年 文藝春秋(文庫版)
キーポイント
  • 麻薬所持で死刑を宣告された兄は、絶望の淵から生還できるか。西欧とアジア、生と死、絶望と救済。兄妹の運命がバリ島で交錯する。
  • 2000年に毎日出版文化賞を受賞したスケール豊かな長編小説。。
(あらすじ)
 幼い頃から絵の才能を発揮し、高校卒業と同時に家を飛び出して人気イラストレーターとなった西島哲郎は、タイで知り合ったドイツ人女性、インゲボルグの誘惑で麻薬の罠に落ち、バリ島で少量のヘロインに手を出して逮捕され、麻薬を大量所持する売人の罪をかぶって死刑を訴追されてしまう。5歳下の妹で、パリから日本に帰国したカヲルは、兄を救うべくバリ島へ飛び、西欧と異なるアジアの熱気に戸惑いながら、領事館や弁護士と交渉し、兄救出に奔走する。物語は、妹カヲルの奔走を描く章と、哲郎が父と衝突して家を出た後にたどってきた彷徨を振り返る章とが交互に綴られる構成で進む。ヴェトナムで出会った少年タインの母、アンの面影を胸に抱きながら、麻薬を知り、川辺でヘロインをやり、トリップ中に目の前で溺れた子供を見殺しにした哲郎は、深い悔恨に苛まれ、逮捕される前から絶望の淵に立っていた。故郷の日本からそれぞれ遠ざかり、兄はアジア、妹は西欧で過ごしてきた2人が、バリ島で再会、極刑を免れるのかどうか、スリリングな成り行きの中で心を共鳴させ、新たな人生へと覚醒していく。「どこかで今の自分の向こう側へ出なければ」と、長らく旅を繰り返していた哲郎の絵がいちばん大きく変わったのは、12年前の10代後半のとき、庭の奥からブーゲンビリアの鉢を慎重に運んできた妹の姿に惹かれ、余計なことを考えずに花を運ぶ妹を描いたときだった。ひたすら数を描いていたあの時期、ほんの小さなことから絵が変化したのに、その絵が評判になり”天才”ともてはやされたがために、哲郎は水増しされたような無意味な絵を量産、ドイツ人女性の誘いに乗って麻薬に溺れ、画家として、人間として消滅しかけたのだった。
 西欧とアジア、生と死、絶望と救済の相克が描かれ、世界から消滅しかけた男の世界への帰還と再生を、スケール豊かに描いた長編小説。2000年に毎日出版文化賞を受賞。
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