翻訳作品紹介
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第5回選定作品
『幽剣抄』 
作品タイトル
『幽剣抄』 
作家名
翻訳者
英語版 / Ian MacDonald
ロシア語版 / Elena Tutatchikova
ポルトガル語版 / Leiko Gotoda
初版
2001年 角川書店
2004年 角川文庫
キーポイント
  • 剣に生き、剣に魅せられた下級武士の悲哀を描く怪談時代小説集。
  • ホラーの旗手が新境地を拓いた傑作怪談時代小説集。
(あらすじ)
 剣術の天才児だった榊原久馬は、居合の指南で若殿を打ちすえて禄を失い、近所の子供たちに剣や書を教えて細々と生計を立てている。妻が病死して以来、むさ苦しかった久馬が急にあか抜け、友人が訪ねると、やもめ暮らしの家は整理整頓されている。「榊原の家に女がいる」。人目につき始めた美女の正体は、おととしの秋、辻斬りの被害に遭った町娘の小夜だった。女幽霊の小夜は、剣の腕を見込んで久馬宅に現れ、かいがいしく世話をし、自分の仇を討てねば久馬一族を呪い殺すという。ところが、辻斬りの正体は、久馬より数段上の達人ぞろいだった……(影女房)。勘定方として抜きんでた能力を持つ地次源兵衛は、媚びずに不正をただす偏屈さで疎んじられ、横領の罪で追放された。討手に斬られた源兵衛は血煙だけ残して消え、主を失った廃屋に源兵衛らしき幽霊が出るとの噂が立つ。廃屋に入った3人のこそ泥が3人とも両足首を切断され、家の門前まで這いずっていくうちに失血して事切れた。さらに、使い手として名高い藩士3人のうち、2人がやはり足だけを奪われ、殺害された。足下に忍び寄り、地面すれすれに太刀を一閃して足首から下を奪い、凄まじい勢いで去っていく旧友の亡霊と対峙した羽田は、理不尽な死を強制された男の恨みを思い知る……(這いずり)。剣に生き、剣に魅せられた下級武士の悲哀と怪異を描いた傑作怪談時代小説集。中短編5編と書き下ろしの掌編4編が収められ、2001年に刊行された。1949年生まれの著者は、82年『魔界都市《新宿》』で作家デビュー。エロスとバイオレンスあふれる伝奇、SF、ホラー、ファンタジーで主に知られ、多数のシリーズを持ち、04年には著書300冊を突破している人気作家である。本作はホラー界の鬼才が新境地を示した時代小説集で、エロス、バイオレンス色はほとんどなく、本格時代小説の語り口の中に「怪異」を織り交ぜた、著者ならではの時代小説怪異譚となっている。
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