翻訳作品紹介
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第5回選定作品
『ベルカ、吠えないのか?』
作品タイトル
『ベルカ、吠えないのか?』
作家名
翻訳者
英語版 / Michael Emmerich published
フランス語版 / Patrick Honnoré published
ロシア語版 / Ekaterina Riabova
初版
2005年 文藝春秋
2008年 文藝春秋(文庫版)
キーポイント
  • 1943年、無人島に残された4頭の軍用犬を「始祖」とする20世紀クロニクル。
  • “イヌの拡散”をファンタジックに追う、娯楽と純文学のハイブリッド長篇。
(あらすじ)
  1943年、北洋・アリューシャン列島。前年に占領したアッツ島の守備隊2500人が玉砕し、米軍に島を奪還された日本軍は、第2の悲劇回避のためにキスカ島から撤退した。このとき、キスカ島に置き去りにされた軍用犬、北、正勇、勝、エクスプロージョンの4頭は、捨てられた事実を理解し、無人になった島で、純血のシェパード犬同士の正勇とエクスプロージョンが交配する。地雷で爆死した勝を除く3頭は、やがて上陸してきた米軍に拾われ、生まれた子犬と計7頭で島を離れた。船酔いでうつ症状となった北はアラスカに移り、犬橇チームのリーダー犬になる。正勇、エクスプロージョンと子犬たちは、軍用犬として米軍のために働き、マリアナ諸島、フィリピン、硫黄島、沖縄の前線で1頭を残して戦死した。正勇・エクスプロージョンの血を継ぐ1頭と、アラスカの北を始祖とする犬たちは交配と混血を繰り返し、繁殖した無数の犬は、世界中へ拡散していく。犬たちが拡散した世界は、第2次世界大戦、朝鮮戦争、米ソ冷戦下の宇宙開発競争、ベトナム戦争、アフガン戦争と続く「戦争の世紀=20世紀」だった。ロシアの宇宙開発において、有人宇宙飛行に先駆けて宇宙に行ったのは、予圧服を着用した犬、ベルカとストレルカの2頭である。そして1990年代、犬たちを巧みに操る1人の老人と、人質としてロシア・マフィアにとらわれた日本人のヤクザの娘との間に、交流が生まれる……。
 1943年から90年代まで、第2次大戦中の無人島に残された4頭の犬を始祖とする犬の年代記と、ロシアの片隅にとらわれた日本人の少女と謎の老人の交流との、2つの物語が並行して語られる、超・世界クロニクル。1998年に作家デビューし、2002年、『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞と日本SF大賞、06年、『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞した著者は1966年生まれ。エンタテインメントと純文学のハイブリッドといえる独特で想像力豊かな世界を、スピード感あふれる筆致で描きあげている。
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